経験 |
受験勉強とは過酷なもので、その時期を乗り越えるために、子ども達は時には泣いたり落ち込んだり、思ったような結果が出ずに苦しんだりしています。親は、自分たちも乗り越えてきたこととは言え、やはり愛する子どもたちが望む「結果」が出てほしい気持ちから、オロオロしてしまうこともあると思います。家中が「腫れ物にさわるような」思いで、妙な空気が流れてしまうこともあるかもしれません。
私が友人と話していて意見が一致したことの、まず1つ目は、その時期を乗り切ってもらうために親に何ができるかというと、「ほとんど何もできない。ただ、しっかりご飯を作って食べてもらう。これは大事。」ということ。「ご飯」というのは、文字通り食事のことでもあるのですが、生活全般と考えてもいいと思います。その基本がご飯ということです。それは、何があっても家族はあなたの味方だから大丈夫、思う存分やりなさい、という気持ちの象徴だと、私は思います。
受験勉強の辛さも、リズムもペースも、本人にしかわかりません。親はそこでとやかく言わず、本人が話したい時は聞き役に徹し、ひたすらご飯を作り、良い状態をキープする努力を手伝う。それでいいのだという話になりました。
ただ、家族の支えも万全なら全てがうまく行くかというと、そうとも限りません。大学選び、勉強、そして結果。たしかにその全てが大事。希望どおりの進路に進めずに悩む子どもを前に、そう簡単に慰めや励ましの言葉なんて見つかりません。
そこで、2つ目の意見の一致。もちろん、これはずっと後になってわかることだとは思いますが、「もしかしたら一番大事なのは経験かもね。」で、その場は大納得。希望の大学へ行ったとしても、期待していたことと違うかもしれない。自分の考えが変わるかもしれない。その時、(それでも、もしそこに居続けるのであれば、)その環境を最大限に活かして何をやるか、どんな仲間や先生と出会って、何を学ぶか、その経験が何より大事なのだと思います。
さらに遡れば、その大学に決めて、そこを目指して、どれだけ真剣に死にものぐるいで勉強ができたか、その経験も、実はものすごく大事なんじゃないかと思うのです。
自分の将来を、その時思いつく範囲、その時得られる情報の中で、真剣に考えた経験。未来図が描けず苦しみながら、「それなら潰しがきくようにこの大学に行っておこう」と決断した経験。そしてそのためにちゃんと自己管理し、自制し、がんばった経験。その全てが、その子の人生に影響していき、思いもしないチャンスに巡り会う布石となるように思います。そして、それがわかる時に、親はもうそばにはいないでしょう。
そう、先のこともとっても大事だけれど、今がなければ先もないのです。子どもに、様々な経験を通して自分をしっかり磨いておいてほしい、そんなことを考えながら、さぁ、ご飯、ご飯っと ^^;
「Magical通信」vol. 127 (2011年11月号)より
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親から見えている子どもの生活なんて、ほんの一部。
子ども達は、その親から見えていないところで経験した、すべてを糧にして成長しているはず。
そんな当たり前のことに気づいたとき、さびしさと同時に、ふっと心が軽くなったのを覚えています。
初めて受験生の親になったお母さんたちに捧げる、そんな気持ちで書いたエッセイでした。【魚住】