たくさんの1回目 |
「Magical通信」vol. 154 (2015年5月号)より
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この言葉を初めて使ったのは、Magical通信2013年4月号の「クラスれぽーと」のUクラスの欄だったと思います。小6でマジカルにやって来て、たった1年でいろいろなことに明るく励んでくれたMINAHOが中1になった時に、彼女に向けた餞(はなむけ)の言葉でした。それはまた、姉妹2人のUクラスの、もう一人のメンバーである当時中3のMIYOに向けた感謝の言葉でもありました。
B.B.カードでやっていることは、遊びながらOSを言うことを繰り返し、言い換えはしても説明もせず、「こういう時にはこう言う」という、言わばイメージとお口のトレーニング。MINAHOにとっては、まさに「できるが先、知るは後」の1年だったと思います。字カードに線を引きながら、「どうして緑色なんだろう?」と首をかしげる二人。「先生が手を叩いたから」と言う私の言葉に大笑いしていたMIYO。そして、どんな言い換えも楽しそうに真似してくれたMINAHO。そんな二人に私も救われていたように思えます。
そして、あのUクラスのおかげで、きちんと覚えてもらうことや、説明してわかってもらうことよりも、「たくさんの1回目」を体験してもらうことが大事なのだということを、私自身が改めて教わったような気がしています。
おかげで、今私は、自信をもってこのことを子ども達に実践できています。小学生のうちは、OSを繰り返し言うことはもちろん、言い換えも「易しい」「難しい」の区別をこちらが勝手につけないことで、構えずに経験してもらいます。中学生は、グラマーカードも、B.B.カードの言い換えもどんどんやります。B.B.カード以外にも「英語で言えることを言う」トレーニングも、多読もそうです。高校生のスピーキングもライティングも、最近やっている読み聞かせもそうです。
どんなことも、1回目と2回目では全然違います。3回目はもっと楽になり、他のことともどんどん融合していく余裕が出てくることでしょう。後は自分できるのです。でも、一番大変なのは、0回目と1回目の違いです。やったことがないことをやるのはエネルギーも勇気も必要です。そもそもそんなこと知らなければできません。そこを助けてあげるのが、私たち先生の役割です。きちんと説明して教えることでも、覚えさせてテストすることでもなく、「たくさんの1回目」を経験してもらうチャンスを作ってあげることが、先生の仕事だと思うのです。
高校生にもなれば、ボキャブラリーを増やす努力も必要です。でも、「暗記したものは忘れる」という前提でがんばってほしい、と、いつも言っています。暗記がムダだとは思いません。でもそれは「1回目」に過ぎないことも知っておいてほしいです。たくさん読むことで何度も何度も繰り返し出会って、単語帳の日本語が気にならなくなるくらい、読んで、書いて、使えばいいのです。そうすれば、暗記も「1回目」として報われます。
MINAHOも中3になりましたね。中学生になっていろいろなことが押し寄せてきたと思います。黙って見守って来ましたが、最近の言い換えの時の声がとてもしっかりしてきたこと、先生はとっても嬉しいです。あの頃の「たくさんの1回目」が、全部ゆっくりと力になっている、そう感じています。
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シラバスや文法事項の難易度を指導する側の都合で決めてしまうのは、教えるのが楽だからです。教える側が
説明しやすくて、評価しやすいからです。ところが、「先週やったでしょ」と言う前提で次のことを重ねるので、できていないからといって前に戻るのは先生にとって大変です。だから生徒は置いてけぼりです。暗記もそうです。テストすると脅されて暗記しても、吐き出してしまえば忘れます。生徒は覚えられない自分を責めることになります。子ども達は、学校ではどうしても「1つクリアして前へ進む」ことに大切なエネルギーを費やすことになってしまうのです・・・。
でも、私は、子ども達の前では、学校でやっていることや先生を批判しません。それより、学校でやっていることも、それはそれと割り切って吸収してしまえるくらいの力をつけてあげたい、そう思っています。
【魚住】