逆立ちしたら見えるかな(7)~「一石二鳥は英語でなあに?」 |
ある日、レッスンにやってきた彼らが「どれだけ日本語のことわざを知っているか?」を競い始めたのです。その日の学校の国語の授業で「ことわざ」を習ったからです。習ったことわざを言い尽くしたころ、ひとりの子がポツリと言いました。
「『一石二鳥』って英語では”One stone, two birds."かなぁ?」
これが、全ての始まりでした。
次々とそのクラスの子どもたちが、自分のお気に入りの「ことわざ」を自己流に英訳し始めたのです。そして驚いたことに、誰一人として私に「このことわざは英語でなんていうの?」と質問をしてこなかったのです。これも予想外です。(もっとも、次のように話が進む間、子ども達が質問をしてきた単語の意味がわからず、素直に謝るしかなかったのですが。)
Aくん「豚はピッグでぇ、、木はツリーでぇ、、、『のぼる』は、なんて言ったっけ?」
Bくん「『のぼる』は、『クライム』じゃん。先生!『おだてりゃ』って、英語でなんですか?」
私「...知らないわー!ごめん!!」
Bくん「ま、いっか。『ピッグ、なんとか、ツリー、クライム』だな。できたぞー。いっちょあがりー!」
こんな調子でその日の英語レッスンは終わり、宿題として日英のことわざを調べてくることとなりました。この日のできごとが、私にとって大きなきっかけになり、「B.B.カード」は生まれたのです。「逆立ちの発想」と「B.B.カード」は、子どもたちが私にくれた大きなプレゼントとなりました。
当時は気づかなかったのですが、この日の子どもたちの「英訳ごっこ」は、とても不思議です。それまで「教えられて覚える」という一方通行の受動的な方法でしか英語を学んでいないのに、しかもセンテンスといえるほどのセンテンスも入っていないのに、どうして「ことわざを英訳しよう!」と突飛でアクティブな気持ちになったのでしょうか?実際、彼らはセンテンスレベルでは短いものなら覚えられました。しかし、それは「理解」にはたどりついていないようでした。たとえば、「マイネイムイズ○○」は、イコール「私の名前は○○です。」とは覚えられても、それを単語レベルにして"my" "name" "is"”○○”に分解してしまうと、意味不明になるようでした。特にセンテンスの中に冠詞や前置詞がはいってくるとお手上げ状態です。おそらく「センテンスがひとつのかたまりで意味を持っている」と、とらえていたのでしょう。ですから、センテンスを単語レベルに分解して、日本語で説明を重ね、なんとか分からせようとしてきたわけですが、そうしようとすればするほど、子ども達の頭の中は飽和状態になって、新しい情報が何も入らなくなってしまうのが常でした。そして英語は「難しい」「わからない」「面白くない」ということになっていたのです。
という次第で、「どうしたら子ども達に英語をわからせることができるのか?」「英語嫌いにならないようにするには、どうしたらいいか?」とあれこれ工夫していた時期に起きたのが「ことわざ事件」です。その日の子ども達の生き生きとした様子から、私の頭の中もぐるぐると回りはじめたわけです。【難波】